植物観察会というと、野山や植物園に行ったりするイメージが強いと思いますが、この観察会では「皆様のまち」がフィールドです。
通勤や通学の最中、友達の待ち合わせや信号待ちなどのちょっとした時間にも、植物は十分に楽しむことが出来ます。
必要なのは、知識よりも楽しく植物と親しむためのちょっとしたコツ。
たとえば、JR国分寺駅からカフェスローまで徒歩10分の道のりも、植物と挨拶をしながら歩けば、2時間かけてゆっくりと楽しむことができます。
実際にどのようなまち歩きになるか、下記に例を作りましたので、ご覧いただければ幸いです。
「まちの植物はともだち」 国分寺駅~カフェスローまでの場合(※紹介する植物の季節はバラバラです)
まずは国分寺駅南口に集合。
▲「まちの植物はともだち」で毎回盛り上がるのが、じつは駅前のロータリー。
なぜなら大抵の場合、どこに行っても駅前にはそのまちのシンボルツリーが植えられているものだからです。
国分寺駅南口で言えば、右側の濃い緑の大きな樹が「クスノキ」。左側のホウキを逆さまにしたような形の樹が「ケヤキ」です。
それでは早速クスノキから観察してみましょう。
▲これが葉っぱです。
まずはちぎって香りを嗅いでみましょう。あれあれ何だか良い香りがしませんか?
あるいは、どこかで嗅いだことがある香りだなぁと思う方もいらっしゃるかもしれません。それもそのはずで、クスノキは樟脳の原料として使われているので、あのタンスに入れる防虫剤の匂いが葉っぱからしてくるのです。
これは、自らに樟脳の香りをつけることで、葉っぱを食べる虫から身を守っているのだと考えられています。
▲葉っぱに3本の脈が目立つのも特徴のひとつ。よく見てみると3本の葉脈の付け根にポコっと膨らみがあるのが見えるでしょうか?
▲これを裏から見てみると、そこには小さな穴が空いていました。
これは「ダニ部屋」と呼ばれるもので、クスノキがダニを住まわせているところ。
まだ完全には分かっていないみたいですが、クスノキは肉食性のダニに住処を与えることで、他の虫を追い払ってもらうという共生関係を結んでいるのではと考えられています。
駅前でさらっと通り過ぎていたクスノキにも、色々なストーリーがあります。こうして一つ一つの植物に対してたくさん時間をかけて観察をするのが「まちの植物はともだち」です。
これだけじっくり見てみれば、いままで植物と馴染みが無かった方でも不思議と名前を憶えてしまう(≒ともだちになる)ものです。
▲クスノキを観察したら、お次は隣のケヤキの樹へ。
▲ケヤキは滑らかに枝を上方に伸ばしていきますが、秋から冬に葉が落ちたあとの姿はまるでホウキを逆さまにしたかのよう。(※これは都内某所のケヤキの樹)
とても綺麗な樹形なので、まちなか至るところで植えられています。
▲国分寺駅前ロータリーでも、足元を見るとケヤキの落ち葉がたくさん落ちています。
▲そのうちの一つをひょいと選り分けてみると、こんな形をしたものを発見。
▲ちょっと近くに寄ってみます。この葉っぱの付け根にあるもの。これ、じつはケヤキの種子なんです。
自ら動くことが出来ない植物は、種を鳥に食べてもらったり、人や動物にくっつくことで、自分の子孫を遠くまで運びます。
▲ケヤキの場合は、美味しい果肉をつけるわけでも何かにくっつくための構造を作るわけでもなく、こうして枯葉と一緒に落ちることで風に乗って種を遠くに運ぶ作戦を編み出したというわけ。うぅむ、なかなか凄いやつですね、ケヤキは。
他にもロータリーでは、見えないようでいてたくさんの植物が生えています。
▲たとえばこのタクシー待合い場の屋根。
▲この屋根の上には、ハゼラン(サンジカ)がたくましく生えていました。
▲この花は昼に見るとつぼみなのに、午後3時になると花が開くという不思議な特徴を持っています。色も可愛く、爆(は)ぜたように咲くから「ハゼラン」、あるいは3時に咲くから「サンジカ」と呼ばれます。
▲実になるとまるで待ち針のようなので「マチバリソウ」という名前もついています。
▲続いてロータリーの奥にはドウダンツツジを発見。この日はクリスマスのイルミネーションがかかっていましたが、ドウダンツツジの最大の見せ場はライトで飾られる時ではなく、寒さが通り過ぎた春一番。
冬の間に準備をしておいた花のつぼみから、そんなに入っていたの!?と思うほどたくさんの花がポロポロこぼれ落ちてきます。
▲こんなに美しいものが駅前ロータリーで簡単に見られるのだから、植物を知っているというのはそれだけで贅沢です。
▲ふと足元を見るとカタバミの仲間がありました。
▲これをひょいと失敬して、おもむろに10円玉を持ち出します。
▲こうしてカタバミの葉っぱを10円玉にこすりつけると…
▲なんとなんと磨いたところが綺麗になるじゃないですか!
カタバミは、虫から食べられるのを避けるために、その体にシュウ酸を蓄えています。そのため、葉っぱを揉みこんで10円玉につけると、酸の力で10円玉が綺麗になるというわけ。
ちなみに野菜で言うと、ホウレンソウも体にシュウ酸を蓄えています。わたし達はホウレンソウを食べる際には一度お湯に通して調理をしますが、あれはシュウ酸を含む野菜を食べ過ぎると結石の原因となるので、食べる前に湯がくことでシュウ酸を水に溶かしてしまうことが目的なんですね。
というように植物を見ていると、気付けばロータリーだけでも軽く1時間は過ぎてしまいます。
この調子で書いていると、このページ自体とても長くなってしまうのでここからはダイジェスト版でお届けします。
ロータリーを出て左に曲がると出てくるのはトウカエデの並木道。
▲植物の名前が分かるようになったら、これからは「マルエツの脇の道」ではなく「トウカエデの道」と呼ぶことが出来るようになりますね。
▲通りを抜けて右に曲がれば、そこはカフェスローまでの一直線。
もちろんそのまままっすぐ行ってもいいですが、ちょっと道沿いにある公園に立ち寄り。
▲入り口にはキンモクセイが植わっています。
キンモクセイはなんと言っても花の時期に見るが楽しみですね。
▲キンモクセイの樹をよく見てみると、カラスウリのつるがくっついていました。
ということは、夏には夜に咲く不思議な花を、秋には赤い実を楽しむことが出来るな。
▲おっ、ここにはヤツデ発見!これは冬に見られる数少ない花なんですよね。
なんてことを観察しながら、もとの道を行くと
▲ヒイラギナンテンを発見(左下)。
▲小さいけれど、こんな黄色い花が咲いています。
▲しめしめ実験だ。小さな棒を拾って花の中に差し込んでみると…
▲ほら!花の中心に6本ある雄しべが、ぐっと中心に寄ったのが分かるでしょうか。
これは花の蜜を吸いにきた昆虫に、雄しべの花粉をくっつけるためのヒイラギナンテンの作戦。動かないと思っていた植物も、じつはよく見ると動くことがあるんですね。
といったように歩いていくと、普通に歩いて10分の道のりでも、ゆうに2時間かけてようやくカフェスローへ到着。
▲店内広々。とっても落ち着くカフェですので是非どうぞ。
▲「まちの植物はともだち」名物。そこのどこに植物があるの?状態。よく目をこらせば、どこにでも植物は生えています。
この観察会では、その時期にその場所で見られる植物を皆さんで一緒に探しながら観察を行います。
「まちなか」というのは、どこも似たような環境になるので、自分のまちで覚えた植物は他のまちでも見つけることが出来ます。
訓練でも学校でも無いので、「植物ってこんなに身近にたくさんあるんだ」ということや「いろんな戦略で生きているんだなぁ」ということがひとまず伝われば幸いです。
出てきた植物を全て覚えることはなかなか難しいので、まずは気に入った植物からおともだちになってみましょう。きっと今まで何気なく歩いていた景色が一変するはずですよ。
「やぁやぁ、もうクチナシの花が咲いたんだね。」
「おっ、こんなところにムラサキシキブの実が!」
「うん、そしたら駅前のハナミズキの下で待ち合わせね!」なんていう待ち合わせが、皆さんと出来るようになる未来が来れば嬉しいなぁと思っています。
機会があれば、ぜひ一緒に植物散歩に出かけましょう!「まちの植物はともだち」でお会いできることを楽しみにしています。