もう冬と言えば判を押したように冬芽観察会ばかり開いている私です。今年は冬芽だけで10回も観察会を行いましたので、私もだんだん手慣れてきまして、さながらひとり冬芽発見器のような状況になっています。
ということで、熱いうちに(また1年経つと忘れちゃうから…)まとめておきます。まちの植物はともだち流、冬芽と葉痕の楽しみ方まとめ!
楽しみ方①
まず、冬芽には3種類あると心得るべし!
早速ですが、ここ重要なポイントです。
簡単に冬芽冬芽といいますが、それぞれの樹木において冬芽のなかに入っているものは変わります。
…と、言葉で言っても何のことか分からないと思いますので、身近な例でご紹介すると、例えばこのハナミズキ。
▲この樹には2種類の冬芽があるのですが、お分かりになるでしょうか?
▲これと
▲これ。
同じ樹木なのに形が違う冬芽がついています。これはなぜかというと、ハナミズキが2種類の冬芽を持っているからなのです。
▲左の丸いのが「花芽」で、右のとがってるのが「葉芽」。それぞれ中身が異なるので、冬芽の形も違ってくるんですね。
▲続いてこちらはヤブツバキの「花芽」。
▲中心で切ってみると、すでに花の細部が出来上がっているので、これが花芽であることが一目瞭然。
▲そしてこちらが「葉芽」。大きさが随分違いますね。
▲これを中心で切ってみると、先ほどとはうってかわって葉っぱだけ詰まっているのが分かります。
というように、冬芽には「花芽」と「葉芽」があるのですが、じつはもう一つ「混芽」というのがあります。
▲たとえばこういうの。これはアオキの冬芽がすでに綻びはじめているものですが、これがもう少し経つと
▲なかから葉っぱと花が同時に出てくるんです。
▲葉と花が混ざって出てくるので「混芽」と表現するわけですね。
▲ニワトコの踊るような芽吹きを見ても、葉っぱと花が両方はいった混芽だということがよく分かります。
なかに入っているものが何なのかを知ることが、まず冬芽の楽しみ方の一つ目です。
楽しみ方②
葉芽には、原則として1年分の葉と茎が入っている!
これがまたなかなか言葉じゃ伝わらないけど知ると面白い話で、「葉芽」の中には葉っぱが1枚だけ入っているわけではなくて、原則としてその年に出す葉っぱと茎が全てまとまって入っているんです。といってもやっぱりイメージしづらいと思うので、写真でご紹介。
▲これはケヤキの冬芽。
▲これがほころんでいくと、なかから葉っぱが出てくるわけですが
▲ほら!ニョキニョキたくさん出てくる!
▲ここまでくれば一目瞭然。葉っぱと茎が両方入ってますね。
凄いですねぇ。はじめはあんなに小さいのに、なかにはこんなに多くのものが詰まっていたなんて。冬芽おそるべしです。
楽しみ方③
冬芽の作戦アラカルト
そもそも冬芽とは、来たる春にそなえて用意しておく葉っぱや花の芽のこと。寒く乾燥した冬をのりこえるために様々な工夫を施して、その身を守っています。
その方法が樹木によって異なるので、それぞれの作戦を楽しんでみるというのが冬芽観察の醍醐味です。
〔作戦a-鱗でガード〕
これは、「芽鱗」という葉が変形したうろこ状のものを冬芽の周りにかぶせて、寒さや乾燥から中身を守る作戦。
▲ドウダンツツジなんかが近くで見やすいかなと思います。
▲タブノキも。なんだか厳重に守ってるのがよく分かりますよね。こういうのを「鱗芽」といいます。
〔作戦b-毛むくじゃら〕
続いてこれはとっても分かりやすい作戦で、「鱗」を毛むくじゃらにして暖かくする戦法。
▲コブシや
▲ハクモクレンが身近で見られると思います。ダウンを着ているようなものですね。
〔作戦c-毛むくじゃら2〕
上で紹介したコブシやハクモクレンは分かりやすく毛むくじゃらでしたが、下記のものはどうでしょうか。
▲ムラサキシキブ
▲アカメガシワ
なんだか、葉っぱがそのままついているように見えると思いますが、もう見たまんまその通りで、こちらは鱗がない冬芽なので「裸芽」と呼ばれるタイプのものです。
えっ、裸なの?寒いじゃん!と思ってしまいますが大丈夫。よくよく見ると、微細な毛が冬芽を覆っているのが分かると思います。これも毛で寒さ対策をしているというわけですね。
〔作戦d-見せない作戦〕
というように、冬芽には大きく分けて「鱗芽」と「裸芽」の2つがあるのですが、さらにもう1つ、もの凄く分かりにくいのがあります。
▲それがこれ。
どれよ。という声が聞こえてきそうですが、これはじつはキウイフルーツの冬芽で、
▲このちょこっと膨れた部分に冬芽が隠れているのだといいます。そう、この冬芽は外から見えないようになっているんです。
その名も「隠芽」。これまた読んで字の如くです。
これで「鱗芽」、「裸芽」、「隠芽」と大きくわけて冬芽には3種類あることがお分かりいただけたことと思います。
その基本を踏まえた上で、面白くなってくるのはさらにここから。この3つの方法の派生系でたくさんの技がそこここで見られます。
〔作戦e-キャップかぶせ〕
これは冬芽の周りにキャップ状のものをスポっとかぶせているタイプ。
▲ちょっとまちなかでは見つけにくくなりますが、ホオノキなんかがその代表選手。このキャップがポロっととれると
▲こうして中身がわらわら出てきます。
〔作戦f-ベタベタタイプ〕
これも少しまちなかでは探しにくくなりますが、たまに街路樹なんかに使われる時もあるトチノキ。
▲これは、こうして冬芽がテカテカ輝いているのですが
▲ほら!
トチノキの冬芽はとてもベタベタしていて、これで保湿効果を狙ったり、虫が冬芽を食べないようにしているのではないかと言われています。
〔作戦g-葉っぱの中にかくれんぼ〕
これは初めて見た時ほんとうに驚きました。
▲街路樹の代表格、モミジバスズカケノキ(プラタナス)の、冬に枯れ残った葉っぱを取ってみると…
▲ここに芽がいました!あぁ素晴らしい。なんという作戦でしょうか。
▲葉っぱの方を見ると、ちゃんとこうして丸くなっています。「葉柄内芽」と呼ばれる方法です。
〔作戦h-そして合わせ技!〕
続いてこちらが、上記の冬芽の作戦たちの合わせ技。
▲こうしてキャップ状のものがかぶさった冬芽をもつネコヤナギは
▲このキャップがとれたあとも
▲フサフサにして寒さ対策をしているという念の入れよう。キャップ+フサフサのコラボです。
〔作戦i-備えあれば憂いなし〕
備えを万全にしているといえば、これも見逃せません。
▲エゴノキ。
これは「主芽」と「副芽」といって、1か所に2つの冬芽をつけるタイプのもの。
春が来るまでに何事もなければ大きい方の冬芽(主芽)が芽吹くのですが、もし主芽に傷がついたりした場合は、そばでスタンバイしていた副芽が芽吹くようになっているという作戦です。
いやぁ、冬芽面白い。本当に色んな作戦があるんだなぁ。と、ひとしきり感動したところで、さらに次の楽しみ方へ。
楽しみ方④
単純に見た目が面白い!
なんだかんだでこれが一番の楽しみ。
ある時は人の顔に見えたり、ある時は動物の顔に見えたりと、まちなかでも樹木に隠されたキャラクターを見つけることが出来るのが冬芽と葉痕観察の正当な楽しみ方(?)と言えるでしょう。ということで最後に、
【これだけは押さえておきたい、まちで見られる冬芽と葉痕ベスト10!】
第10位 クリ
▲クリの冬芽はクリみたい と覚えてください。
第9位 ガクアジサイ
▲見事な顔。星の王子様にちょっと似てる?
第8位 イロハモミジ
▲豚の蹄みたいな形。
第7位 カシワバアジサイ
▲両手を上げて困った顔している子どものよう。
第6位 シマトネリコ
▲最近庭木として植えられることが増えたシマトネリコの冬芽。トングみたいな形。
第5位 トベラ
▲小人かナマケモノがたくさん!
第4位 サンゴジュ
▲王冠をかぶった西洋の貴族みたい。
第3位 クズ
▲冬芽史上トップレベルの顔の恐さ。
▲いろんな表情があって面白いです。
第2位 ユズリハ
▲これも見落としがちな葉痕。
春になると古い葉が新しい葉に世代を譲っていくユズリハですが、世代を譲っていったユズリハがこうして微笑んでいることを知ると、なんだか心が暖まります。
第1位 サンショウ
▲かわいい!問答無用にかわいい!!
そして番外編① ソテツ
▲これは熱帯地方の植物なので、ちょっと冬芽のタイミングがずれるので番外編としました。
▲この葉っぱの芽がほころんでいく様子、かなり圧巻です。
▲自然のエネルギーがばしばし伝わってきます。
番外編② オニグルミ
そして最後にご紹介するのは、やっぱりこいつ。
▲まちなかでもたまに植わっていることがあるので、これさえ見つけられればその日の冬芽観察会は成功したも同然。冬芽といえばオニグルミ。オニグルミといえばアルパカです。
あぁ面白い。この世に冬芽があることの奇跡に万歳!もう季節は春。今シーズンの冬芽を愛でられるのも、ギリギリもギリギリのタイミングです。もう芽吹きはじめて間に合わないものもありますが、ラスト追い込みでぜひご観察を!!
*下記、おすすめの図鑑*
まずは、【ネイチャーウォッチングガイドブック 樹皮と冬芽】(誠文堂新光社)。
なんと431種類も冬芽が掲載されている図鑑です。あわせて樹皮も載っているので、冬の樹木観察はこれさえあればバッチリ。
続いて、【冬芽ハンドブック】(文一総合出版)。上の図鑑はハードルが高いと思う方にはこちら。ハンドブックシリーズで持ち運びがしやすいうえに、巻頭に検索表がついているので初心者でも使いやすく出来ています。ちょっと楽しむくらいなら、これだけでも十分だと思います。
そして最後に言わずと知れた名著、【ふゆめ がっしょうだん】 (かがくのとも傑作集)。冬芽の可愛さ・面白さを世に伝えた先駆者的存在です。1990年に刊行されたものですが全く色あせない面白さです。
細かい話はいいから、冬芽の可愛さを堪能したいという方はこの本を読むだけでも十分だと思います。
あ~あ、もう春が来てしまう。
早くもまた冬が来てほしいとつい思ってしまう私です。