常日頃植物を見ていて驚くのは、何といってもその作りの巧妙さ。

▲たとえば、ひっつき虫。なんだかズボンにひっつくなぁと思いアップで見てみると

▲こんな形でくっついていました。コセンダングサです。

▲このトゲトゲがズボンの繊維にひっかかっていたんですね。

オヤブジラミ

▲続いてこちらはオヤブジラミ。

オヤブジラミ

▲トゲの先端がクルっとなっているので、これもまた服の繊維にひっかかりやすくなっています。

マジックテープ

▲そしてこちらは私たちの生活でお馴染みのマジックテープ。

マジックテープ

▲テープに近付いてみると、オヤブジラミのように先端がくるっとなっているのが分かります。

じつはこれ、ひっつく虫とマジックテープが偶然似ていたのではなく、自然の造形を人間が真似して製品にしたものなのだといいます。

時は1940年代。スイス人のメストラルさんが、散歩のときに愛犬にくっつく種の様子を観察し、簡単についたりはがれたりするシートの開発の着想を得たのだとか。

とっても面白い話だなと思いますが、このように、自然に学んだ技術のことを「ネイチャー・テクノロジー」と呼ぶのだといいます。

▲ということで、今日はこの本のご紹介。

ネイチャー・テクノロジーは、私たちが普段使っているものにも多く取り入れられています。

二ホンミツバチ

▲たとえばハチの巣。(これは二ホンミツバチ)

ハチの巣は、こうして綺麗な六角形が隙間なく並ぶ非常に巧妙な作りをしています。

二ホンミツバチ

▲この部屋の一つ一つに花の蜜や花粉を貯めたり、幼虫を育てたりするので、出来れば頑丈にしたい。けれども、出来た巣が重いと、ちょっとした衝撃で巣は地面に落ちてしまいます。

二ホンミツバチ

▲そこでハチが作るのがこの六角形。

もし円形の筒だとしたら、その構造自体は丈夫でも筒を並べた時に隙間が出来てしまいます。三角形なら並べても隙間は出来ないですが、一つ一つの部屋の大きさが狭くなる。それでは四角形ならどうだ。というと、これも隙間なく並べられますが、縦の圧縮には弱くなってしまいます。

というように、隙間が出来ずに並べられて、かつ衝撃に強い形は六角形しかないというわけ。

二ホンミツバチ

▲それで、この構造を人間が利用したのが「ハニカム構造」といわれるもの。軽くて頑丈な六角形の構造を使い、ビルの外壁やヨット、人工衛星などに使われているのだそうです。

こうして実際にすでに様々な場所で使われているネイチャー・テクノロジーですが、まだまだ発展途上なので、色々な研究と開発が日々繰り広げられているそうです。

たとえば、今まさに僕の目の前にはこんな光景が。

ヤモリ

▲すりガラス越しのヤモリさん。

つい普通に見てしまいますが、よく考えると気になりますよね。どうやってこのガラスにくっついてるの?ヤモリさん。

ヤモリ

▲スタスタ歩いてますけど。

ヤモリの足の裏を顕微鏡で見ると、その指の腹にはとっっっても細かい毛がたくさん生えているそうで、その数なんと1本の足につき50万本もあるのだとか。さらにその一本の毛先が100~1000個に枝分かれしているので、4本の足を合わせると億単位の毛先を持つのだといいます。

でもそれとこれと何の関係が?というとちょっと難しい話ですが、

物と物とが目に見えないほどの近さ(1ナノメートル程度)まで近づくと、互いに引き合う力が生まれるのです。この力を「ファンデルワールス力」または「分子間力」といいます。(P.12)

ヤモリなら、先ほどカウントした細かい億の数の毛によりファンデルワールス力が発生。理論上は120㎏にも耐えられる接着力になるのだそうです。

ヤモリ

▲吸盤じゃなかったのか…。あなた…。

もしもこの構造を利用することが出来れば、使い捨てではなく何度でも繰り返し使えるテープを開発することも夢ではなくなります。

傷口の応急処置でペタっと貼れるかもしれないし、ねじを使わない工業製品が出来るかもしれない。なんと、夢のスパイダーマン手袋も作れるかもしれない。

これらは決して夢物語ではなく、いま現在、実際にヤモリ・テープの開発に取り組む方がいらっしゃるのだそうです。

ほかにもたくさん引用したいことばかりですが、この本ではこうしたネイチャー・テクノロジーを紹介した事例が「蚊・・・痛くない注射針」、「フクロウ・・・静かな新幹線」、「シロアリ・・・エアコンいらずの建物」というように計16個紹介されています。

ちょっと難しいかな。と思う内容も、ついつい読んでしまうビジュアルで構成されているので、その点も嬉しい一冊。自然のことも技術のことも一緒に楽しく知ることが出来ます。

最後に、監修の石田秀輝さんのあとがきが秀逸なので、一部引用させていただきます。

持続可能-つまり続いていくことのできる社会とは、地球に回復できないようなダメージを与えない社会、自然のサイクルや再生速度をきちんと考えていく-そんな社会のことです。ではそれを、どう創ればよいのでしょう。何を模範にすればよいのでしょう。

―その答えこそが、「自然に学ぶ」ということではないかと、私は思うのです(P.139)

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大事なことは、暮らし方も一緒に変えることです。

エアコンは本当に必要なのだろか?エアコンがなくても、快適に、心豊かに暮らせないのだろうか?そういうことを考えなおすことこそが大切なのです。そんな考えから、シロアリの巣に学んだエアコンいらずの建物も生まれました。(P.140)

環境保護や自然保護を訴える文脈の中では、時として文明批判がなされ、科学技術の行き過ぎが指摘されることがあります。

ですが、人類発祥以来、人の暮らしと技術は切っても切り離せない関係にありました。本当は自然保護と技術の進歩はその両輪を回すことが出来るはずで、むしろ率先して手を取って歩むべきものであると思います。

自然保護のため、科学文明を捨ててしまおう。

科学技術の進歩により、自然を乗り越えよう。

そのどちらでもなく、環境を守れるように技術を進歩させる。そんな発想を持つ人がこれからも増えていけばいいなと思います。

大人にも子どもにも読んでもらいたい本。おすすめです!


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