まちの植物はともだち

キンモクセイの香りが切ない理由

通りを歩いていると、足元にオレンジ色のつぶつぶが落ちていました。

▲なんだろうかと近寄れば、たくさんのキンモクセイの花。

あぁ今年ももう終わりかぁ。秋の訪れとともに咲き、冬の予感を漂わせながら散っていくキンモクセイ。

▲数日前の花盛りの時。その独特の良い香りから、この花を好きな人も多いと思います。

ですがこの香り、どことなく切なさを含んでいるようには感じませんでしょうか?植物学的には全く正しくありませんが、今日はキンモクセイのそんな話を一つお届けします。

キンモクセイは、その木にこれでもかという程たくさんの花を咲かせますが、その「実」を見たことがある人はほとんどいないはずです。どうしてでしょうか。

その答えは簡単で、じつは日本にあるキンモクセイは全て男性の木だからなのです。

キンモクセイは「雌雄異株」といい、「男性の木」と「女性の木」とに分かれている樹木。日本には、中国から海を越えて運ばれてきました。

江戸時代の人が、よく香る花がたくさん咲く「男性の木」を気に入り、それだけを育て増やしてきた結果、日本には男性の木だけが広がったのだと言われています。

男性の木の花がよい香りを発するのは、虫などを誘って花粉を運んでもらい、女性の木の花と受粉して子孫を残すため。

しかし、日本には女性の木がいないので、いくら男性の木が花粉を出したところで、その受粉が成功することはありません。

そんなことも知らず日本のキンモクセイは自分のパートナーが見つかることを信じ、全力で良い香りアピールをし続けているというわけなのです。

どうでしょうか。人を心地よくさせるその香りが、じつは叶わぬ恋の香りなのかと思うと、ただでさえ物悲しい季節がさらに切なく感じられてきませんか。

この話を書こうと思い、どこかに日本のキンモクセイが男である証拠がないかなと探していたところ、簡単な所に見つかりました。

▲花のアップ。花びらは根本でくっついて離れず、ちょうど「X」みたいな形をしています。こうして見ると意外に面白い。

▲さらに近寄るとくっきり分かる2つの雄しべ。

日本のキンモクセイの花は全てこの作りをしています。おそらく女性の木は雌しべが目立つ花のつくりをしているはずですが、なにせ日本には男性しかいないので確かめるすべがありません(いつか見てみたいです)。

何百年もの果てない時間、決して届かぬ思いを懸命に飛ばし続けるキンモクセイの情熱と悲哀の香り。今年もその想いは遂げられることなく散っていくようです。

ううむ、やはり簡単に「良い香り~!」として喜んでばかりはいられないですね…。

今年もこれでいよいよ冬へと季節が変わっていきます。植物もぼちぼち冬支度をはじめているみたいですね。